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Shizuoka Design Award 建築賞2021を終えて

【応募期間】 2021年8月1日~2021年10月29日
【応募総数】 32作品(住宅部門:6作品、一般部門A:13作品、 一般部門B:7作品、改修・増築部門:6作品)
【現地審査】 2022年3月8日~2022年3月10日、3月17日

建築文化推進委員長 鳥居久保

静岡県の建築界にはこれまで建築を作品性で推し量り、それを顕彰する社会的な場のないことが指摘されてきました。また全国的な建築賞の場において、静岡県に建つ建築であっても地元の設計者の入選作品は少なく、受賞の多くを中央の設計者が占めてきた事実がありました。
そこで今回、(一社)静岡県建築士事務所協会では、地元の設計事務所の作品を一堂に集めて審査する場を作り、静岡県の建築の質の向上を図るとともに、互いの建築作品への認識を高めるためにも、待望の「建築賞」を設立いたしました。
審査員は複数ではなく原則一人として、その一人の審査員に作品選出にあたっての権限を委ねるということ、審査員の任期は2~3年でそれを1クールとすること、最優秀を選ぶのではなくレベルに達した複数の作品を入賞(上位)と入選で顕彰すること、審査は書類と現地審査から成ること、等を選出の枠組みといたしました。そうして将来的に回を重ねていけば、複数の視点の中で静岡県の多様な建築観を表出する「建築賞」になっていく事が期待されるものであります。
初年度の今回は審査委員長を保坂猛氏にお願いいたしました。建築家であり教育者でもあられる保坂氏の、地域性を読み解く講評と所見をご覧いただきたいと思います。受賞者だけではなく将来の静岡県の設計の質を高めていくためにも、保坂氏の作品に対する評価の言葉が多くの設計者にとって創作活動の参考となれば幸いです。
最後になりますが、今回の新たな事業の立ち上げに際して、応募してくださった会員・非会員の皆様に心より感謝するとともに、井上会長がコロナ禍にあっても本来の事業遂行に向けた新たな建築賞創設を示唆されたことに深く感謝する次第であります。ここに9作品の受賞の決定を以て、第1回の「Shizuoka Design Award 建築賞2021」の終了をご報告申し上げます。ありがとうございました。

Shizuoka Design Award 建築賞2021 受賞作品発表

瀬戸新屋の家

株式会社SN Design Architects 一級建築士事務所

講評
敷地地盤面は道路から1.2m高いことをうまく生かした開放的なたたずまい。手前の大きな屋根庇、通り土間と呼ばれるガラスの空間、その奥の石敷きの庭、さらに奥の擁壁という、日本的空間「奥性」のようなものが、品をもって自然にできていると感じた。アプローチの階段、玄関、リビング、通り土間、キッチンダイニングというシークエンスもとても豊かで上質。外、中、外のシークエンスが単調ではなく豊かに連結し、家のいたるところがカフェのようなというお施主さんの希望にもかなっている。素材の選定、耐久性、コスト管理など実に的確。お施主さんのこだわりと設計者の設計力がよく噛み合っていると感じた。

音の森こども園

株式会社SN Design Architects 一級建築士事務所

講評
東側の森の自然をL型の園舎でおおらかに受け止めて敷地を超えて自然を享受する環境、空間をシンプルに生み出した。L型は園庭に面してRとし、片流れの屋根は、実際には大変な寸法調整によるもので設計、施工とも力作。コスト管理を徹底し、軒は構造梁を現すことをやめ、サッシも住宅用とし、無理をせず確実にスケジュールを守るマネジメント力は、社会的責任を果たす職能人として正しい。園の教育方針が設計者を介して見事に具現化し、隅々までその気配りと愛情が行き渡っていると感じた。

袋井西コミュニティセンター 彩雲館

株式会社竹下一級建築士事務所

講評
上下2段の直行梁を平面に斜交して掛け渡し、4周に軒下スペースをつくり内外に豊かな空間を生み出した。軒下を歩く親子連れの市民の姿が新しい公共施設の姿を爽やかに具現化しているようで印象的だった。4周に活動スペースを配し、中央に事務機能という明快な平面計画で、横引きシャッターでスタッフがいない時間の市民利用もできる大らかさも素晴らしい。設計に力を入れたであろう大きなガラスファサード面よりも、むしろスケールを抑えた引き戸サッシのある面の方に魅力を感じた。若さゆえの荒さもあるがそれも爽やか、秀作。

Blue house/Blue office

株式会社後藤周平建築設計事務所一級建築士事務所

講評
後藤さんのご自宅と事務所。小学校の通学路でずっと見ていた既存建物を、売りに出ていないにもかかわらず交渉し買取り、リノベーション。この建物だ!という思いが一貫していることが、たいへん新しくストーリーとして魅力的。既存建物設計者と対話するかのように、既存と新規の境界があいまいなスタンスで柔軟に適材適所の細やかな操作の積み重ねで、自邸ならではのクオリティに至っている。1Fの庭の砂利の敷き方や、隣地壁面の塗装色の評価、2階の窓がたくさんある気持ちの良い室内に、ナイスアイデアな吊り棚やテーブル類、調度品とお子さんの作品などがセンスよく肩の力が抜けて生活されていて、良い。地元に根を張って活動する覚悟のようなものが表れていて清々しい期待感が溢れている。既存建物への思い、ストーリー、既存躯体を尊重したリノベーションのあり方の事例として魅力的であり高く評価したい。

磐田市立総合病院研修棟

渡辺隆建築設計事務所

photo©Kenta Hasegawa

講評
組織事務所による既存RC病院建築への増築。病院職員のためのロッカールーム、食堂、つなぎ廊下(ブリッジ)から成る。既存建物階高にあわせ2階に食堂をとのコンペ規定に対して、確実に空間的魅力の得られる3階に階高の高い食堂を配置するという、階高反転を果敢に提案し理解を得た計画。食堂からは周囲の山々、空、西日が美しく病院スタッフの食堂での滞在価値を高めることに成功している。つなぎ廊下は高さ調整のためスロープとなり、美しいシークエンスの動線となり、歩くことが業務と休憩の切り替え空間となって、中から見ても外から見て美しいものになっている。既存建物に対する極めて挑戦的かつ建築的に高度な計画であり高く評価したい。

公園に暮らす家

株式会社後藤周平建築設計事務所一級建築士事務所

講評
木造3階建てでありながら、柱・梁のフレームを露出し軽やかな架構が鮮やか。開放的な空間を行きとどまらずにループする動線や、屋内、屋外、上下階の居場所の連続性が、家族の生活の空間的連関を生み、限られた敷地内を下から上まで実に良くつくられている。土台を現しとしたことなど建築の耐久性への配慮が意匠的魅力へとつながるディテールが各所に見られた。また架構を表したいという伊達さんの考えを達成するため、後藤さんによる法規の理解と設計への応用といったコラボレートが、何度も重ねられて出来た秀作だ。

小室山リッジウォーク「MISORA」

株式会社石井建築事務所

講評
この場所を知らなかったが、来てみるとこの上ない最高のロケーション。小規模なリフトにのって標高321mへと上昇する体験とあわせてかわいらしく楽しい。近くにくることがあれば小室山は行ってみてほしい場所と思った。噴火口の周りにウォークデッキを周回させ、天空を歩くような気分で海近の風が気持ち良い。建物は地形の二つのマウントの間に差し込み半地中的構成とし景観形成に成功している。自然観光資源のリニューアルの優れた事例として評価したい。

よこすかぬく森こども園

株式会社竹下一級建築士事務所

講評
大小の12角形の円を並べた平面計画、木を模した鉄骨架構。動線はすべて外部、折板屋根のかかった人工木デッキの回廊とし健康的に子供たちがかけまわる恵まれた環境だ。人工木デッキは地面から120mm程度の高さで、子供達はこれに座って園庭を眺める場も形成していた。年齢別に領域分けられた園庭、緩やかな高低差を反映した床の段々、それに伴うサッシサイズ等の調整など、若くエネルギー溢れる設計者によって溌剌と作り上げられた秀作。若さゆえの荒さもあるがそれも爽やかであり評価したい。

灯屋 迎帆楼

株式会社石井建築事務所

講評
料理旅館時代からRC5階建時代を経て、再び料理旅館時代のような低層にもどす計画。犬山城城郭内に位置する景勝地域内に既得権で特別に建設するということに対して、十分に答えていて意義深い。中廊下とし、木曽川側あるいは犬山城側に開口をもつ客室はどれもメゾネットになっていて、2階にいくと反対側に臨むことで、どの客室も木曽川側と犬山城側を堪能できる計画は、アイデアが良い。どの客室も、テラスに面して浴室があり、貸切露天風呂にいかなくてもいいくらい充実している。景勝地の景観配慮型の改修事例として評価したい。

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