第5回 建築系高校生設計コンペ 受賞作品発表
(一社)静岡県建築士事務所協会
会長 金丸 智昭
今回で第5回目となる静岡県内の建築系高校生を対象とした設計コンペを開催いたしました。
このコンペは、次世代の建築分野を担う高校生が、自分たちの住んでいるまちに夢を描くこと、そして地域の発展やまちづくりに参加する意識を高めていくことを願って、開催しています。また、建築設計の楽しさを感じながら、設計への取組みや表現などを身に付け、地域で活躍する設計者になってほしいと願っております。
今回のテーマは「地域と繋がる住まい」。昨年1月に能登半島で大きな地震が起きました。被災者にとって地域の繋がりが心の支えになっていることは言うまでもありません。災害時だけでなく日々の暮らしを通して、地域の人々と繋がりを、建築を通してどのように表現・提案していくか、高校生ならではの視点で自由に発想して、設計に反映していただきました。コンペにご参加いただいた皆様に感謝申し上げ、これからも魅力ある「建築系高校生設計コンペ」を開催してまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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第5回 建築系高校生設計コンペ受賞作品発表

地域の図書館
浜松工業高等学校 2年 小林 美心

講評
JR浜松駅の南口、交通の往来が激しい駅南大通り沿いに「サザンクロス商店街」の入口はある。ここはかつて砂山銀座商店街と言われ、多くの利用客でにぎわっていたが、現在は空き家やコインパーキングがその多くを占めて、数店の店舗を残すのみだ。土、日にはマルシェやマーケットが立つが、それも一過性の賑わいと言わざるを得ない。地方都市によくある光景だが、巾8m、長さ110m、全天候型のアーケードを持つこの商店街の復権、復興に作者はモノを売る店舗とは違う賑わいを計画した。
この家に住む本好きの夫婦は、地域の人から要らなくなった本を寄付してもらう。そこで集まった本をこの家にストックし、まちの図書館として貸し出す。提供してくれた人には、権利として商店街の割引券が配られる、という提案だ。
表の商店街から南の屋外テラスまでを貫く家の中の「通り土間」こそ、この家の最大の特徴だ。この通り土間にはカフェ、図書スペース、貸出カウンター、子供スペース、に加えて屋外には公園のようなテラスや芝生広場が連動し、接続される。この家の中を通る土間こそが、商店街と地域を繋ぎ、図書館という用途を利用しながら賑わいとコミュニティを創出する、まちに開かれた建築的提案となっている。
この視点には、まちづくりやエリアマネージメントだけでなく、現代の家庭像(家族像)から投影される少子化や子供の第三の居場所(サードプレイス)、地域の記憶の継承(知の拠点)などの社会課題や目的意識が見通されている。
おそらくこの「地域の図書館」が商店街にできることによって、本を介して人々がふれあい、新たな人の流れができて、テラス席では子どもだけでなく、お年寄りや散歩途中のペット連れの人たちも利用する、小さくも大きな可能性を持った交流の場となるだろう。この世界観こそ、作者が建築を通して実現したかった新しい「サザンクロス商店街」であり、利用する人たちを穏やかな日常(well-being)へといざなう街の姿であり、その将来的な建築観が秀逸であると評価された。
建築文化委員会 担当副会長 鳥居 久保

緑の輪
浜松工業高等学校 2年 植田 真綺

講評
この作品は、テーマとして掲げた「地域と繋がる住まい」をシェアハウスという形で表現したこと、そして地域の地場産業である林業に焦点を当て、若い世代が関わるアイデアを提案していることが秀逸であり、主催者の発想を超えた作品である。シェアハウスで同世代が繋がりながら生活出来ること、木材の伐採から商品販売まで関われること、ワークショップなどイベントを開催して地域以外の人とも交流が生まれることなど魅力的で見ていてわくわくさせる作品である。この建物に人々が集まり、地域のシンボリックな建物であるためには木材を全体的にアピールするようなデザインが効果的であると感じる。また周辺環境との関わりも発展性のある作品で今後もレベルの高い設計を期待したい。
(一社)静岡県建築士事務所協会 会長 金丸 智昭
総 論
まずは、当協会 第5回目の高校生コンペに、2点の応募を頂きましたことに、深く感謝申し上げます。
課題は地域を意識する事を必要とし、建築計画をデザインだけではなく、利用する人々にも意識をする必要がある様に設定した事から、動きのある作品が集まりました。建築は、人が利用して初めて生きて来ることを理解し、各々が普段から意識している社会情勢や問題点と照らし合わせ、コンセプトを設定した上で、登場人物の設定や空間構成をパースで説明するなど、判りやすく考え方を伝えようと工夫を感じる事が出来、大変うれしく思います。
今回は、申し込みをしながらも、作品が出来上がらなかったケースも多く、提出された作品が少なかったことは、主催者側にも様々な工夫が必要な結果になりました。全国区のコンペも多く存在する中で、地元開催の強みを生かしたコンペが出来るようにして行きたいと思っております。
今後も提案するきっかけを提供する事で、建築を楽しみながら様々なアイデアを表現していく場を作って参ります。
建築文化委員長 山本 康二郎